聖なる夜にこんばんは、金子です。
久々にトリココマです。と言いながらココが好きすぎる内容でバランス悪かったらごめんなさい。
でも旦那ズが好きなんです。
スペシャルデイズ
「カレンダーばかりはぼくの力ではどうすることもできません」
小松は毅然とした態度でトリコに告げた。
壁にかかったカレンダーは最後の一枚になっており、今月最大のイベントは週末にさしかかっている。
「わかってる。おれだっておまえの天職ともいえるシェフの仕事を邪魔する気はねえ。クリスマス後は年末年始のイベント行事が待っているのだってわかってる。まるまる一週間どころか一月ハードワークだってこともな」
理解ある口調でトリコもこたえた。
ココはお茶を飲みながらふたりのやりとりを見守る。イベントがあるたびに行われるやりとりは、すでに恒例化している。本気のけんかにはならないのでいつもココは傍観者のポジションにいた。
トリコと小松の他愛のない(しかし譲れない)言い合いを見るのがココは好きだった。
我がままをいえる相手に巡りあえたこと、本来、図々しくも控えめな性格である小松の、気を許した文句。それらのしがらみを煩わしく思わない自分自身がココは大切だった。
庭時代、彼らはイベントなど興味はなかった。サニーの妹であるリンが研究所に来てから、ココはイベントに気を遣うようになった。自分のためというよりリンの情操教育のためと言っていい。
研究所を出てからというもの、イベントの時期になると女性が騒ぎ立てるので余計に興味がなくなったものだ。
小松と出会ってからだとココは思う。それはトリコも同じで、昔の彼を知るココとしては、我侭なくせに甘えないトリコの無理難題振りが好ましかった。あまりな無茶振りには相応の報復をするが。
「ココ?」「ココさん?」
カップを手にしたまま動かないココにふたりが声をかける。
「話はまとまったね」
呆けていても話は聞いていたココだ。
「日曜日は昼シフトだっていうから、25日はえっちなしならお泊りおっけーだってさ」
ちなみに土曜日はフル稼働なシフトのため、クリスマスイヴは小松をゆっくり休ませようという話だ。
「体を壊さないでね」
小松のハードワークを心配するココに、
「むしろクリスマス後の方がぼくは心配です」
小松はまっかな顔で呟く。
「期待してろ」
トリコが見当違いな発言をして小松を呆れさせた。
幸せな日常に、ココは知らず微笑を浮かべた。
それが、数週間前。
「雪か・・・」
店じまいの看板をかけるため外に出れば雪がちらついていた。
クリスマス直前のこの時期、毎年女性客は殺気だつ。暗くなってもなかなか帰ろうとせず、閉店時間が大幅に過ぎるのが常だ。
「ココさーん!」
遠くから聞こえる声にココは耳を疑う。視線をあげれば、よく知る電磁波のふたりが道の向こうからやってきた。
「小松くん、どうして? トリコも」
駆けてきた小松を受け止めたココは、現実の彼に驚いた。
「ハントの帰りなんです。本当はグルメフォーチュンに寄るのは遠回りなんですけど、トリコさんに無理を言って寄らせてもらいました」
走ったためか小松は息を切らせながら喋る。
無理、とは結果として小松のためにはならず、ココは心配した。
「週末には会えるのに、無理しなくても」
ココの言葉に、小松はむくれる。
「好きなひとと会うためなら無理は無理じゃありません、違いますか?」
小松はココの首に両腕を回して抱きしめた。
「ま、おれも無理して小松をハントに誘ったからな。ウーメンに値引き交渉されるとは思わなかったぜ」
「ふん、差し引きプラスと思っているくせに」
ココは毒づく。だけど、楽しい。
「ココさんはトリコさんみたいにわがままを言わないから心配です」
小松の言葉は本音だろう。心配だから、隙を見つけてココに会いに来たと言っていい。
「ぼくにわがままを言わせたら凄いよ?」
小松に心配されるのが嬉しくてココは軽口を叩くが、
「ココはむっつりだからどんな要求をされるかわかんねえぞ?」
トリコが横から口を挟み、ふたりの間に挟まれている青年をまっかにさせた。
「おや、期待されてるのかな?」
ココもいつぞやのトリコの台詞を真似して小松をからかった。
「グルメ鉄道の時間があるので失礼します」
乱暴に小松が言うが、本気で怒っていないのはわかった。だからココもすかさず「ホームまで一緒にいよう」と言って小松の後を追う。
「一緒にいられる時間があるのに、一緒にいないのはもったいないからね」
少しでも長く、ともにいたいとココは願う。
イベントも関係なく、いとしいひとといられるのは大切な日常だ。
大切だから切なくなり、哀しくなるのだ。それは決して悲観する意識から生まれた訳ではない。
「大好きだよ、小松くん」
言葉がうまく見つからず、想いだけを口にする。
(甘え下手)だとココを見て、苦笑いを浮かべるトリコだった。
終わり
ちょっとセンチメンタルなココさんで!