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「只今嵐中」 小松とリン
「降ってきましたねー」
空が曇ったと思ったら、瞬く間に雨がガラスを打ちつけ雷が落ちた。
グルメ研究所のリンの部屋でケーキを焼いていた小松は窓の外を見た。
「島だし、天候が変わりやすいし」
ベッドのなかからリンも窓の外を見た。
リーガルマンモスの体内で重症を負ったリンはいまだ療養中だ。グルメ細胞を持つ少女だが、回復力はトリコほどではない。だからおいしいもの(甘いもの)をたくさん食べたい小松に言う。
サニーにお願いすれば「太りすぎてベッドから起き上がれなくなるし!」と却下されるのだ。
グルメ関係の施設だけあって、個人の部屋にも簡易キッチンがある。フルコースは無理だが、お菓子や簡単な料理なら可能だ。
冷蔵庫もあるので、小松はケーキの焼き時間の間に野菜のスイーツゼリーもいくつか作った。
「うち、雷って好き。力強いしね」
轟音を好きと言えるリンのたくましさに小松は微笑む。
「うちも雷みたいに強ければ、トリコの力になれたかな」
「今のままのリンさんでも十分に力になってますよ」
少なくとも自分よりは、と比べる対象が根本的に違う気がして小松は口にしなかった。
「おー、やっぱリンの部屋で作ってたか」
ノックとともに現れたのはトリコだ。続いてサニーとココが室内に入ってくる。
「リン、松にお菓子作ってもらうなんて・・・じゃなくてケーキばっか食うんじゃないし」
「高カロリーでなくてもおいしいお菓子は作れますよ」
小松がサニーを宥める。
「うちのお見舞いのケーキだからお兄ちゃんにはあげないし!」
「まあまあリンさん、また違うケーキを作りますよ」と今度はリンを宥めにかかる。その様子を見てココが笑う。タイマーをみて「もうすぐ焼きあがりそうだね」と声をかけた。
「アイスクリームもってきたぞ、ケーキに合いそうじゃねえ?」
「そのアイディア素敵だし、トリコ!」
食べものでにぎわうリンたちに、小松の笑顔は止まらない。おいしいものを食べて、おいしいものを囲んで楽しく時を過ごす贅沢さは最高だと小松は思う。
「お茶の準備なら手伝うよ」
キッチンに向かう小松にココも続いた。お茶の時間がはじまる。
嵐を忘れそうなひと時。
「恋バナ」 ココマ+リン
「ココって今好きなひとがいるの?」
リンの無邪気な質問に、ココは飲んでいた紅茶を喉に詰まらせそうになる。
ココがむせることしばし。
大丈夫ですか? と声をかける小松とは対照的に、リンはのんびりアイスココアを飲んでいる。
「なんだい、藪から棒に」
「ココって占い師でしょ? たくさんの恋の悩みを聞いてアドバイスするココなら、好きなひとにどんなアプローチするのかなーって思って」
「あー気になりますね」
リンの考えに小松も同意する。
「別に、普通だよ?」
ココの言い方は、現在好きなひとがいるかどうかというこたえにはなっていない。
「普通にしてても相手に通じているって意味?」
「まさか。そこまで自惚れてないよ。でも普通に、あたりまえのように大切にしたいと想っている」
「いいなあ、うちもトリコにそんなふうに想われたいし!」
「トリコ(さん)にそれ(ロマン)を求めても」
ココと小松の声がはもる。
「小松さんならどうする? 好きなひとへのアプローチ!」
「ぼくですか? お聞かせするほどのものでも・・・」
「ぼくも知りたいな、小松くん」
テーブルが華やぐ。
「なあ、あそこに女三人いるように見えるのは気のせいか?」
「気のせいじゃないし。つーか美しくなし!」
「職場内デート」 小松とリン
「小松さーん、デートしよ! 喫茶ホテルグルメの初夏限定フレッシュサマーパフェ食べたいし!」
リンの口からでた「デート」という単語に、言えたくても言えず「ハント」と言葉を濁すしかできないサニーは撃沈した。
「いいですよ」
小松もあっさり返事をする。これにもサニーは撃沈した。
「甘いもんばっか食うなって言ってるし! 土管どころかアザラシになるし」
「意味不明だし、ばかアニキ!」
コミュニケーションにしては少々過激なトークバトルを兄と妹は繰り広げる。
(リンさんかわいいなぁ。妹がいたらあんなふうに甘えてくれるのかと思うとなんでもお願いを叶えたくなる)
上司を「ハゲ」と呼び、トリコの身体能力についていける少女を「かわいい」とまとめる小松だった。
「この兄が美容パフェを作ってやるし!」
だから小松とのデートは諦めろと論点が軽くずれたサニーを「やだし」とリンは切り捨てる。
「お店に行って頼んだものを一緒に待ってるのが楽しいし」
「ならばこの兄が一緒についっていってやるし」
「来なくていいし。保護者同伴のデートなんてハズいし。アニキがついてきたら文句しか言いそうにないし。おいしいもの食べるときは楽しくしたいし」
リンは駄目出しを連打する。
デート=遊びに行こう! と小松がサニーに説明できるのはいつになるのか。
(サニーさんもリンさんの心配をしてることだし、待ち合わせはホテルグルメにすればいいかな?)
小松の気遣いも軽くずれていた。
リンちゃん復活記念でした。「実は生きていた?」の翌週に「意識が戻り立ち上がって食事する」とは思わず、療養ネタは懐かしく思います。