「甘い日」 ココマ
「今日はキャンディの日だから甘いことをしてもいいんだよ」
ココさんがいきなり言った。
そんな日があるとは初耳だけど、世の中いろんな「日」が作られていく。知らなくてもおかしくないよね、うん。
「例えば?」
「ごはんを食べさせてあげたり、ひざまくらしたり、一緒にお風呂にはいったり」
例えばを延々と話す内容は確かに甘いと思えるもので、ちょっとぼくにはできそうにない。軽く引いてしまった空気が表れたみたいだ。
「安心して」とココさんが笑うから、ぼくは無条件で安堵した。
「ぼくが小松くんにしたいだけだから」
ココさんの発言にぼくはいろんなものを見失ったけど「キャンディの日」にちなんで普段はやらないことをした。
後日「キャンディの日」が嘘だったと知る。
・・・聞かなかったことにしよう。
「甘く薫るは」 ココマ
「甘いかおりですね」と小松くんが言った。道すがら、春の風が吹いたときのことだ。庭先から白く小さな花が咲き乱れる。
ジャスミンだ。
ぼくとしては小松くんの方が甘くかおるけれど。
「おいしそう」
どこぞの食いしん坊ちゃんみたいな感想に笑いがこみあげる。
甘いかおりがおいしさを連想させるなら、ぼくにとってきみは最上級の美味なるひとだ。花のかおりを嗅ぐ小松くんのとなりでぼくも屈んで花に顔を寄せる。
きみがおいしそうといったかおりを嗅ぐことで今は我慢しよう。
「とろける」 ココマ
毒の制御ができなかった頃、自分の手から滴り落ちる毒液に怯えた。
毒だけでなく成分も同じ。今では手足のように扱える毒も、はじめは自分の一部からできたものと思えないほどコントロールできなかった。
いつかこの能力で自分が死ぬのだと日々想像して恐怖した。トラウマと呼ぶほどではないけど、今も根強く残る感情だ。
それでも客商売はできるし、好きなひともできた。
勇気をだして告白をした。
彼と出会えたのは奇跡だ。
ぼくが毒の体質を持っていなければ、彼の優しさに気づかなかったかもしれない。そう考えると研究所での日々は無駄ではなかったと思える。
(きっとぼくは彼と会うために毒人間になったのだ)
変わる。
重ねた手の平から熱が伝わる。溶けそうなほど暖かい。
このまま混じりあってひとつになりたい。
そんなことは不可能だから、いとしいひとを抱きしめた。素肌が気持ちいい。ぬくもりは春に似て目覚めを拒みたくなる。もう少し眠っていよう。
まだきみととろけていたい。