拍手再録４

地味に（じゃないかもしれませんが）拍手ネタは更新してるので気づけばどんどん溜まっています。

「LOST?」 

 
強靭なトリコが記憶喪失になったという知らせを聞き、ココと小松は病院にかけつけた。

頭を打った程度で怪我はひどくない。ふたりを見るトリコは元気そうだ。

「誰？」

記憶喪失というわりに呑気な声がトリコらしく、ココは脱力するが小松はショックを受けていた。

医師の説明では、一時的かもしれないし、一生戻らないかもしれないという話だ。

小松は青い顔のままで、ココはといえば「ラッキー」などと思えず苦虫を噛み潰していた。

小松を間に挟んで、トリコとココの三人は恋人同士だった。

不思議なものでお互いから小松を奪おうと思ったことはないし、夜の関係も常に三人で過ごしている。

ココだけでなく、小松もトリコを忘れている。

下手をすれば記憶のあるトリコより手ごわいと、ココは感じた。

ココといる限り小松はトリコを思い出す。

心はいつもトリコに向かう。忘れ去られた哀しみが執着を生む。

小松がトリコに傾いていくのを止めるためには、ココも小松から離れるしかない。

計算がココの脳裏によぎる。どのタイミングで小松に話せばいいのか、考えているうちに彼とはぐれたのに気づいた。

同じ病院内だから心配はないとココは一瞬思ったが、

「トリコ？」

今まで小松にばかり気をとられて、記憶がないからという理由でトリコの存在を忘れていたが、すぐに甘い自分を思い知った。

慌てて病室に戻れば、ドアの外からでもひそやかな睦言が聞こえてくる。空気も露骨なほどいやらしい。

ココが急いでドアを開ければ、トリコは小松をベッドに押し倒しており、濡れ場を見られても「よ」と呑気な声がかかった。

「ばか、病院でなにやってる」

「だって、こいつ、いい匂いがするんだぜ。食べないてはないだろ」

「食べるな」

トリコを止めようとしても、所詮はいわゆるトリコ。

「なんだよ、おまえも食べたいのか？」

嫉妬に孕むココの目を察して、トリコが意地悪く笑う。

「なら一緒に食べようぜ。こいつも喜ぶ」

半裸の小松をトリコの大きな手が撫で回す。ぴくぴくと震える小松に、ココの喉が鳴った。

結局、ふたりで小松を抱きしめ、最中にトリコは記憶を取り戻した。

後で院長に（さすがに医師や看護師は四天王が怖くて止められなかった）、その後小松にふたりはさんざん怒られるのであった。

「雨」

 
雨は好きじゃない。

キッスは飛び辛そうで、占いのお客も少なく閑古鳥だ。

加えて空気に宿る湿気の圧迫感に息がつまりそうだ。

このまま小止みにならなければ、濡れて帰るのも面倒なので店に泊まるしかない。

こんなときのために２階は簡単な住居にしている。

暇だと思うのは、旧友と再会して以来なにかとにぎやかになせいだろう。

静かな日々が遠い昔のように感じる。

 
ドアがノックされる。雨の日に珍しいと思ったが、来客ではなくグルメ宅急便の配達員だった。

グルメ時代にふさわしく、グルメ、食材を最高の品質で保って届けてくれる業者だ。

差出人は小松くんからだった。

包みをあければ、茶葉とパウンドケーキが３本入っていた。

『おいしい茶葉を譲ってもらいました。お裾分けです。茶葉を使ってケーキを焼きました』

普通１本だろうけど、３本いれるあたり、小松くんの量の感覚はトリコに影響されているようだ。

カードにはトリコにも同じものを送ったと書いてある。

遠く離れていても三人が同じものを食べられるなんて、宅急便のおかげとはいえ不思議で、そして嬉しい。

雨の日も、小松くんの心使いを感じる日なら悪くない。

雨が小降りになってきた。今日は早めに店を閉めて帰ろう。

キッスを呼んで、一緒にケーキを食べようか。

 
「シークレットハニー」

 
「秘密と蜂蜜って親戚だと思うか？」

トリコの突拍子のない発言はいつものことだが、今回は群を抜いている気がしてココと小松は開いた口が塞がらなかった。

好意的に考えてみても「みつ」という共通点があるだけで、存在はまるで違う。

「赤の他人だ」

「何故親戚だと思ったんですか？」

ココは無情に、小松は理由を口にした。

「だって両方ともおいしいじゃねえか。関係があるって思っちまうだろ」

さも当然という顔のトリコに、ふたりは微妙な顔をした。

蜂蜜がおいしいのはわかる。しかし秘密のおいしさを理解するのは難しい。

秘密は優越感が先立つ。それは同時に特別感を強調するものだ。

三人の関係を特別に思うトリコの捕らえ方はかわいらしい。ココと小松は顔を見合わせて笑った。

 

後日、小松はトリコのためにチーズとナッツの蜂蜜漬けトーストをおやつに作ってあげた。

 

トリココマでまとめてみました。

個人的にはトリコの記憶喪失ネタが気に入ってます（笑）