Please tell me the spice.
美味な宝を捕獲する喜びに勝るものはなかった。しかし今回、苦労した食材を手しても胸がときめかない。逆に物足りなく感じる。理由を考えるが、食材、捕獲に関しては鋭敏なトリコの感覚もアンテナがうまく動かない。
「なんだろな」
独り言のような台詞の後にトリコは後ろを振り返る。もちろん背後には誰もいなかった。
「おまえはどう思う?」
トリコが相談に選んだのは、ふぐ鯨の捕獲を依頼して以来、顔を突き合わす回数が増えた友人である。
「食料倉庫荒しに教えるネタはない」
トリコが来るとココの家の貯蓄庫は空になる。客人が遠慮なく食べるからだ。
「他のなにを食べてもいいが、G2フェニックスの塩漬けとブレオカジキの燻製、ドライネオトマトのオリーブ漬けには手をつけるなよ」
四天王一食いしん坊が「食いたい」と涎を垂らせば、文句を言いながらも提供してくれるココが珍しく牽制した。興味にかられてトリコは理由を尋ねる。
「小松くんが調理してみたいと言ったからね。新鮮なものを用意してもいつ彼の時間がとれるかわからないから保存食として手を加えておいたが・・・トリコ?」
ココの話を聞いているうちに、トリコは気分が悪くなった。いつもなら自分も食べたくなるのだが、不思議な反応にトリコは首をひねる。
「小松か」
最近会ってないとふいに気づいた。
「おまえらいつの間に連絡とりあったんだ?」
「メルアドを交換したんだから、メールのやりとりぐらいするだろ」
さも当然という顔をされて、トリコは軽く衝撃を受けた。
「まさか携帯番号も知ってるのか?」
「トリコは知らないのか?」
驚きを持って聞くトリコに、ココも驚いて聞き返す。
「知らねえ」
連絡先などトリコは考えてもみなかった。気づけばいつも小松はそばにいたのだ。住む場所も職業も違うのに、当たり前のように彼はいた。
「ふーん」
ココの意味ありげな視線に晒されてトリコは居心地が悪くなる。
「なんだよ?」
「別に。ただ小松くんの連絡先も知らないような男が、今日来た質問のこたえを知ったところで理解できないと思ってね」
別に、ではじまった割にココの台詞は意味深だ。
「焦らすな」
トリコは口を尖らせ、わざとらしくも拗ねてみせた。
「今度小松くんをハントに誘ってみればいい。自分から小松くんを誘ったことはないんだろ?」
「よく知ってるな。小松から聞いたのか?」
「ぼくの副業を忘れてもらっては困る」
ココが得意げに言う。
「小松くんを誘えばこたえは見つかる。これは占わなくてもわかるから、無料で教えてやるよ」
上から目線のココが癪に障るが、小松に会えると思えばトリコの気分は浮上した。急に力がみなぎり、トリコは勢いよく席を立つ。思い立ったが吉日を座右の銘にする男に「ためらい」の文字はない。
「この時期の旬は・・・あれか、限定メニューでだしてみたいとか言ってたな」
トリコの思考が小松と食に終結する。
「小松くんの休みがとれるといいな」
「気分が盛り下がること言うな」
文句を言うトリコの顔は楽しげだ。
次回のハントは楽しくなりそうな予感がする。この差はなんだとトリコは思うが、深く考えないタチの男は疑問を置き去りにする。それよりも楽しいことに意識がむかった。
そばに小松がいるかいないかで変化する感情の名前を、トリコが知るのはもう少し後の話になる。
終わり