Happy Days
「メリークリスマス。好きだぜ、小松」
25日の日付が変わる頃に帰宅すれば、いつからいたのか、トリコさんがアパートの玄関前に立っていた。告白が続くとは思わず「メリークリスマス」と返したぼくは慌てる。
急激に冷えた夜で、頬や耳は痛いくらいなのに、汗を流しそうなほど体中が熱い。トリコさんは藍色の目がまっすぐにぼくを見る。怖いぐらいに真剣で、そしてぼくのこたえを待っていた。
不安のかげりを感じないのは、ぼくの気持ちをトリコさんは勘付いているからだろう。ぼくもトリコさんが好きだった。
こんなふうに予告もなしに現れて、すべてをさらう静けさでぼくを動揺させるトリコさんが、断られるなんて微塵も思っていない傲慢な彼が、クリスマスに告白なんて意外にかわいらしいことをしてくれる美食屋が。
「ぼくも好きです、トリコさん」
メリークリスマスと改めて言えば、口づけと抱擁が返ってきた。
考えてみると、トリコさんを部屋にあげてまず食事をださなかったことなんてなかった。玄関を開けた瞬間にムードもへったくれもなく寝室に運ばれ、ぼくはいただかれた。ココさんいわく「食いしん坊ちゃん」の我慢のきかなさは、食事にたいしてだけではないみたいだ。
「心の準備が!」さすがにいきなりは怖かったのでストップをかければ、
「おれを好きなくせにセックスも考えてなかったなんて言ったら拗ねるぞ」逆切れ(?)された。
さすがです、トリコさん。
こうしてぼくは、クリスマス明けを恋人と同じ布団で過ごした。ぼくの布団ではトリコさんの規格外の体がはみ出している。風邪を引きそうで申し訳ない。ありったけの毛布を眠るトリコさんにかけるてからぼくは風呂に入った。
朝風呂なんて贅沢だけど、自分の体の後始末・・・をして、体の緊張をほぐす。レストラングルメには昼から出ればいい。家にある材料を思い出しながらトリコさん用にメニューを考える。今までだって何度もトリコさんのためのメニューを考えたのに、今日は一段と楽しく感じた。
昨日とは確実に違う日々がはじまるのだ。
嬉しくて、はたけ違いのパンをこねたり、朝からオーブンを使って肉のかたまりを焼いたり気合が入った。料理も準備がひととおり終わりそうになった頃、トリコさんはようやく起きた。
「豪勢だなー」
「はい」
なにせ記念すべ一日ですから!
ぼくは昼出だと告げてから、トリコさんの予定を聞く。昨日はそれどころでなくて、翌日の確認もできなかった。
「急な依頼で正月までハントしなくちゃいけないのがある。これから出るし、しばらく会えない」
しばらくなんて、一週間二週間会わないのは当たり前だったのに、急にその時間が惜しくなるのだから不思議だ。
「もしかして、だから昨日告白に来てくれたんですか?」
まさか本当は新年とともに告白に来るつもりだったのか?
「新しい一年をおまえと迎えるなら最高じゃん」
当然と返すトリコさんの笑顔がまぶしい。
「今日はトリコさんが出るのにあわせてぼくも出ます」
ぼくが言えば、トリコさんは変な顔をした。
「ゆっくりしていけよ。連日仕事がハードなんだろ? 昨夜もハードだったし」
にやりと笑うトリコさんは、腹立たしいけど妙な色気もあって目のやり場に困る。
「一緒に玄関を出たいです」
スタートを表す玄関をトリコさんとともに出たい。胸が躍る。この気持ちはなんだろう?
「あんまりかわいいこと言ってると喰っちまうぞ」
そう言ってトリコさんは、ぼくにたっぷりのキスをくれた。
一緒にごはんを食べて、一緒に出かける支度をして、一緒に玄関をくぐる。ぼくとトリコさんの新しい日は別々に過ごすことからはじまったけど、それさえも大切に思える瞬間だ。
冷気と日光が降りそそぐ世界で、ぼくらの一日がはじまる。
終わり